おすすめ度
★★★★☆(4.0)
何かに迷っている、一歩を踏み出せない、そんなあなたに。
好きそうな人・苦手そうな人
・何かに夢中になっている人
・夢に向かって努力している人
・予定調和なハッピーエンドを喜べる人
・心が疲れている人
・分かり切ったハッピーエンドが苦手な人
・「きれいごと」があまり好きではない人
・シビアな物語が好きな人
あらすじ
ジュゼッペのあだ名は「トリツカレ男」。何かに夢中になると、寝ても覚めてもそればかり。
オペラ、三段跳び、サングラス集め、潮干狩り、刺繍、ハツカネズミetc.
そんな彼が、寒い国からやってきた風船売りに恋をした。無口な少女の名は「ペチカ」。
悲しみに凍り付いた彼女の心を、ジュゼッペは、もてる技のすべてを使ってあたためようとするのだが……。
まぶしくピュアなラブストーリー。
(本書裏表紙より)
作品情報
ページ数:160ページ
著者:いしいしんじ
ジャンル:童話(大人向け)
出版社:新潮社
紹介・感想
あなたの今、何かに「トリツカレ」ていますか?
もちろん、霊的なものの話しではなく、夢中になっているものですね。
私の場合、ハマっているものは今のところはありません。
小説を書いたり、ブログの記事を書くことは好きですが、ハマっている、というよりは生活の一部、という感じです。
紹介
本書「トリツカレ男」はハマったものを一心にやり続ける、そんな純朴な男「ジュゼッペ」を主人公とした物語です。
ジュゼッペは変わっていて、町では「トリツカレ男」として有名です。
何かにハマると、次に別のものにハマるまで、寝ても覚めてもそればっかりやってしまう、そんな男なんですね。
ハマるものは様々で、オペラや三段跳び、探偵、ハツカネズミの飼育等。
これと言って共通点もありません。
ハマるきっかけは些細なもので、テレビでオペラを見ていてオペラに、バッタを見て三段跳びに。
時には周りに迷惑をかけてしまうこともありますが、町の人たちは呆れながらも、許してくれます。
なんと言っても「トリツカレ男」ですから。あいつがトリツカレているんならしょうがないな、と。
色々なものにハマっていくジュゼッペですが、ほとんどの場合がなんの役にも立ちません。
時には、三段跳びで世界記録を叩き出したりします。
ですが、大会当日に別のものにハマって大会をすっぽかしたり、飼っていたネズミは彼に愛想を尽かして大脱走。
それでも町の人に愛され、一匹残ったネズミを相棒に、色々なものにトリツカレながら毎日を過ごしています。
そんなサンドイッチ作りにハマっていたある日、彼は公園で風船売りの女の子「ペチカ」に心を奪われます。
仲良くなろうと不器用ながら頑張るジュゼッペですが、ペチカは何か悲しみを抱えているらしい。
それをどうにか解決できないか、ジュゼッペはどうにか彼女の悲しみを消そうと頑張ります。
感想
私にとっては久々に泣ける小説でした。
純朴な、バカがつくほど正直者の主人公が、相手のことだけを想って力を尽くす。
今の世の中、頑張っても中々成果が出ない、思うようにいかない、そんなことばかりです。
本書はそんな「あなた」の頑張りを、無条件に肯定してくれます。
人によっては「きれいごと」として、リアリティを感じない、面白くないと感じる人もいると思います。
でも、そんな「きれいごと」こそが本書の最大の魅力だと、私は思います。
時間の無駄だろうが、役に立たなかろうが、コスパが悪かろうが、人に評価されなかろうが。
それでも、何かを頑張っている、何かに夢中になっている「あなた」は素晴らしい、魅力的だ。
そんな風に全力で応援されている気分になります。
本書は大人向けの童話のような内容で、予定調和的なハッピーエンドを迎えます。
ですが、しっかりと「現実」も描かれています。
登場人物がどうしようもない現実と向き合う場面もあります。

途中で登場する「先生」の話は涙なしには読めない、辛い現実です。
そんな困難に心を揺さぶられながらも、自分が「やるべき」と考えたことをやる。
理想論のようなきれいごとを求めて、時には現実の辛さに立ち向かう人間の強さ。
それは案外、本当に幸せを引き寄せる要因なのではないか、と私は感じました。
もしあなたが、迷いや焦りを感じているなら、現実に押し潰されそうになっているなら。
「トリツカレ男」はあなたがもうもう一歩踏み出せるよう、応援してくれるはずです。
何かと日々闘っているあなたにおすすめの本です。
ぜひ、一度手に取ってみてください。
それでは、あなたが素敵な本との出会いに恵まれますように。
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