おすすめ度
★★★★☆(3.8)
内容は本格的なミステリですが、文章で好き嫌いが分かれそうです。
好きそうな人・苦手そうな人
・ライトノベルを読み慣れている人
・これから小説を読んでみたい人
・トリックのあるミステリが読みたい人
・テンポよく物語を読み進めたい人
・読み応えのある文章が好きな人
・ライトノベル的な物語が苦手な人
あらすじ
自分ではない他人を愛するというのは一種の才能だ。
他のあらゆる才能と同様、なければそれまでの話だし、たとえあっても使わなければ話にならない。
嘘や偽り、そういった言葉の示す意味が皆目見当つかないほどの誠実な正直者、つまりこのぼくは、4月、友人の玖渚友に付き添う形で、財閥令状が住まう絶海の孤島を訪れた。
けれど、あろうことかその島に招かれていたのは、ぼくなど足下どころか靴の裏にさえ及ばないほど、それぞれの専門分野に突出した天才ばかりで、ぼくはそして、やがて起きた殺人事件を通じ、才能なる概念の重量を思い知ることになる。
まあ、これも言ってみただけの戯言なんだけれど――
(見返し部分より)
作品情報
作者:西尾維新
ページ数:553ページ(アトガキ含む)
ジャンル:ミステリ
出版社:講談社文庫
感想
あなたは「西尾維新」という作家をご存じですか?
代表作としては「〈物語〉シリーズ」が有名で、アニメ化もされているため、一度は目にしたことがあるかもしれません。
特徴的な登場人物が多く、特定のキャラクターを好きになる方も多いようです。
さて、本作は「〈戯言〉シリーズ」の第一作目です。
第23回メフィスト賞受賞を受賞した、著者のデビュー作でもあります。
西尾維新氏は独特のリズムを持った文体が特徴で、軽妙な会話文で物語を展開することに長けた作家です。
内容も基本的に軽いもので、小難しい説教や、じっくり考えないといけないような内容は含まれません。
ライトノベルを読み慣れている方には、親しみやすい内容かと思います。
本作については地の分が主体となって展開されていきます。
一人称視点で主人公が見たもの・考えたことをそのまま文章にしたような、テンポ重視の文章です。
文体は非常に軽く人を選びますが、内容だけ見れば本格派のミステリに分類できると思います。
舞台は天才を集めて暇をつぶしている金持ちに招待された島で、烏の濡れ羽島です。
基本的に住んでいるのは金持ちの令嬢、その世話をする使用人だけです。

もっとも、招待されているのは主人公の「ぼく」ではなく、友人のハッカーである「玖渚」の方で、主人公は付き添いの凡人枠です。
登場人物はいずれも各分野の超一流と呼ばれるような天才ぞろいで、それ故にクセの強い人物ばかりです。
・「世界の解答にもっとも近い七人」の一人に数えられる学者
・「すべてを知る」と言われる占い師
・スタイルを一切持たない画家
要約すると分かりづらいですが、凡人とはかけ離れた感性の人物が多い、ととらえてもらえればいいでしょう。
魅力的な人物が多いですが、本作に限ってはキャラクターの個性を楽しむ、という風にはなりにくいように感じます。
ですが、会話の端々に出る個性ある主張は、極論故のストイックさがあり、妙な納得感があります。
登場人物との接触がカギとなって物語が進行するため、自分も現場にいるような臨場感も楽しめます。
天才ばかりの中で、一般人の「ぼく」が主人公として動く。
主人公がヒーローではないからこそ、その心情にも共感しやすく、テンポよく読み進められると思います。
もっとも、主人公が凡人ゆえに読者も一緒に振り回される場面もありますが、それも含めて本書の魅力と言えるでしょう。
あまり小説になじみのなかった人、特にミステリを読みたい人には非常におすすめできます。
タイトルの意味が後になって分かる点にも、注目すると面白いですよ。

なお、本書はミステリの側面が強いですが、後のシリーズ作品はミステリからは離れている印象です。
ミステリを読みたい、という方は本書のみ読めば十分でしょう。
では、あなたが良い本との出会いに恵まれますように。
コメント