おすすめ度
★★★☆☆(3.6)
今までのSFとは少し違う、既存の枠を飛び越えた作品を読みたいあなたに。
好きそうな人・苦手そうな人
・変わった物語が読みたい人
・物語に置いてきぼりにされても楽しめる人
・堅苦しくないSFが読みたい人
・細かい単語はそこまで気にしない人
・専門用語を読み飛ばせない人
・小説とは「こういうもの」という型を持っている人
・ライトノベルのノリが苦手な人
あらすじ
遥か未来、あるところにシンデレラというトランスヒューマンの少女が下りました。
〈魔女〉魔女から拡張現実ドレスを与えられた彼女はカボチャ型の飛行体に乗ってお城の舞踏会に参加します。
でもその夜、空から宇宙最強の爆発・ガンマ線バーストが降り注ぎ――「シンデレラ」「竹取物語」「白雪姫」などの名作童話と本格SFのガジェットが賑やかに融合した笑って泣ける短編集。
第6回ハヤカワSFコンテスト優秀賞受賞作。
(裏表紙より抜粋)
作品情報
作者:三方行成
ジャンル:SF
ページ数:333ページ(解説含む)
出版社:ハヤカワSF文庫
備考:ハヤカワSF大賞優秀賞受賞
紹介・感想
あなたは理想を手にしたとき、その外に踏み出すことはできますか?
心地よい環境からあえて踏み出して、冒険を始める。
それはとても勇気が必要で、難しいことでしょう。
本書を手に取ったあなたは、もう一歩を踏み出していますよ。
紹介
本書は童話を下敷きにしたSFの短編作品集です。
元はネット小説ですが、第6回SFコンテスト優秀賞を受賞しています。
タイトルにある通り、各短編すべてにガンマ線バースト(※)が関わっています。
※恒星の爆発に伴ってガンマ線(強力な放射線)が放射される現象。過去に大量絶滅の原因となった、
とする説もある。
帯には「本格SF」と銘打たれていますが、そこまで堅苦しい内容ではありません。
今後100年から200年くらいでは実現されそうな時代が舞台です。
本書の時代では現代の人類は存在せず、ポストヒューマンと呼ばれる新人類が登場人物です。
地下深くに設置されたサーバーに意識を移植して、不老不死になった人類、という感じですね。
実際の肉体も存在はしていますが、「金持ちの道楽」のように語られています。
各短編が最後につながるように描かれており、最後まで読むとより楽しめるでしょう。
感想
題名を見ればお察しの、ぶっ飛んだタイプの小説です。
ですので、好き嫌いはかなりはっきり分かれそうです。
今までにない書き方を読みたいに人にはオススメです。
「小説とはこうあるべき!」という型を持っている人には受け入れにくい小説でしょう。
要素としては下記のような感じです。
・童話を下敷きにしているせいか、小説にしては珍しい「です・ます調」。
・聞き慣れない横文字・用語の連発。
・昔話の世界観に当然のように語られる超科学。
例:竹林に入り、竹が送りつけてくるウイルスまじりの抗議メッセージをフィルターすると、翁は切り出しの作業にかかりました。翁の送り込んだコードが竹の細胞にアポトーシスを誘発します。
p63、1~3行目「竹取戦記」より引用

引用したような文章が受け入れられなければ、あまり向かないと思います。
逆に、引用部分を読んで興味を引かれたり、ワクワクするなら、オススメです。
個人的には面白いと思いますが、好きではないですね。私は固めの物語が好きなので。
ただ、物語の構成は非常に上手いと思います。
ぶっ飛んだ設定に見えますが、矛盾はなく、読ませる力も強いと感じました。
連作短編のような作りで、1話ごとに楽しむことができますが、読み通すとまた違うものが見えます。
変わった書き方とは裏腹に、各話ごとにメッセージ性があり、読後感も楽しめます。
初めて食べる奇抜なお菓子を想像すれば分かりやすいでしょうか。
外側はやたらと斬新な色使いだけど、実はフルーツ味の新感覚チョコレートボンボン。

そんな感じです。
SFと前衛的な要素を殻に纏っていますが、人間の普遍的なものも描いているからでしょう。
物語によっては、ちょっとしたどんでん返し要素を持ったものもあり、色々な楽しみ方ができます。
SF慣れしていない人には理解できない用語も多いので、読みにくいかもしれません。
ですが、各用語を理解できていなくても、物語にはあまり影響ありません。
基本的にはわからない単語は読み飛ばしてOKです。
流れの中でなんとなくは理解できます。
細かい説明がないため、人によっては不親切に感じるかもしれませんが、その分テンポはいいです。
物語の舞台ではサーバーに意識を移植して、生身を捨てて生きることが当たり前になっています。
今からすればまだ実現は難しそうですが、ゆくゆくは実現できそうな内容で、単なる創作とも言えません。
ある意味では、体に縛られない自由を手に入れた時こそ、人間の本質が浮き彫りになるのかもしれませんね。
理想が簡単に実現できる・実現した時、目の前のものにもう一度チャレンジできるか。
これまで読んだ小説に満足している方は、一度冒険として手に取ってみるのもあり……かも。
それでは、あなたが素敵な本との出会いに恵まれますように。
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