おすすめ度
★★★★☆(3.7)
短編の恋愛小説を読みたい方、色々な恋愛の形を読んでみたい方におすすめ。
好きそうな人・苦手そうな人
・少し変わった、違う視点の恋愛小説が読みたい人
・現実と少し離れた設定も楽しめる人
・読後感を楽しみたい人
・短編小説が好きな人
・男女が愛を深めていく、王道の恋愛小説が好きな人
・爽快な物語を読みたい人
・起伏の大きい物語が好きな人
あらすじ
舞台俳優・家福を苛み続ける亡き妻の記憶。彼女はなぜあの男と関係したのかを追う「ドライブ・マイ・カー」。
妻に去られた男は会社を辞めバーを始めたが、ある時を境に店を怪しい気配が包み謎に追いかけられる「木野」。
封印されていた記憶の数々を解くには今しかない。見慣れたはずのこの世界に潜む秘密を探る6つの物語。
(本書背表紙より)
作品情報
・作者:村上春樹
・ページ数:300ページ
・ジャンル:恋愛
・出版社:文春文庫
感想
あなたにとって、失恋で失うものはとはどんなものですか?
本作は広い意味で「失恋した男性」をテーマとした短編集です。
作者の村上春樹は文学作家として有名ですが、個人的には本作に文学らしさは薄いように感じました。
「文学」と聞いてイメージするような堅苦しさはなく、恋愛小説好きも楽しめると思います。
背景に込めた主題よりも、物語の余韻を楽しむために書かれている、という感じでしょうか。
さて内容ですが、短編集ということもあって、舞台も主人公の年代もさまざまです。
主人公はあまり特徴のないタイプですが、主人公を取り巻く登場人物たちは誰しも個性的です。
・努力で関西弁を身に着けた東京出身の友人。
・浮気を楽しむ独身主義の美容外科医の男性。
・寝物語に前世の記憶や過去の話しをする女性。
・浮世離れした雰囲気のバーの常連。
どの人物も身近には中々いませんし、想像もしにくい奇妙な個性をもった人物たちです。
しかし、特徴的でありながらどの人物にも人間味が感じられ、隣に座っているような現実味があります。

また、物語の舞台は一般的な家庭から、思考実験の場のような非現実的な生活空間まで。こちらも様々な舞台が用意されています。
それぞれの空間ごとに展開されていく物語も、奇妙な現実感があり、引き込まれていきます。
どの話も女性が離れてしまった男性の物語なのですが、私は女性の方が案外楽しめるのではないかと感じました。
それぞれの短編中で登場する女性たちは、それぞれが男性から離れていった理由があります。
その理由も女性を少し神聖化しているものや、非常に人間臭い欲にまみれたものまで。
どの女性も人間性と神秘性の両面から書かれている印象です。
複数の女性を描いてはいますが、「女性」という男性からすると神秘的な対象を、ピースに分けて描いたようにも感じました。
象徴としての「女性像」を描いている、といってもいいかもしれませんね。
そのせいか、全く違う女性像でありながら、私には一人の女性を書いているようにも感じます。

女性の同性としての意見も是非聞いてみたいですね。
文章は読みやすく、地の文が多いですが内容もスラスラと入ってきます。
長いセリフを不自然と感じさせない、くどいと感じさせない点からも作者の技術の高さを感じます。
私はこれまで村上春樹の作品を読んだことはありませんでしたが、他の作品にも興味を引かれました。
少し変わった恋愛小説を読んでみたい、という人に向いていると思います。
逆に、男女の恋の行方を描いた王道の恋愛小説が読みたい方には、少し合わない気もします。
文章の質も高く、短編でさっくりと読めますので、気になった方は是非手に取ってみてください。
では、あなたが良いほんとの出会いに恵まれますように。
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