おすすめ度
★★★☆☆(3.3)
色々な作者の作品が読みたい人、好みの作者を見つけたい人におすすめです。
好きそうな人・苦手そうな人
・色々な作家の短編が読みたい人
・作者の個性を楽しみたい人
・今まで読んだことのない作者に挑戦したい人
・軽めのミステリを楽しみたい人
・重厚なミステリが好きな人
・緻密な物語が読みたい人
・エンタメ重視の作品が苦手な人
あらすじ
『密室がある。糸を使って外から鍵を閉めたのだ。』
これが、トリックです。本来ネタバレ現金の作中トリックを先に公開してミステリを書くという難題に、超豪華作家人が挑戦!
鍵と糸――怒鳴字トリックから誕生したのは、びっくりするほど多彩多様な作品たち。
日常の謎アリ、驚愕のどんでん返しあり、あたたかな感涙あり、胸を締め付ける切なさアリ……。
5人の犯人がカギをかけて隠した5つの“秘密”を解き明かす、競作アンソロジー。
(本書裏表紙より)
作品情報
ページ数:296ページ
著者:似鳥鶏、友井羊、彩瀬まる、芦沢央、島田荘司
ジャンル:ミステリ
出版社:新潮社
感想
あなたの得意分野はどんなことですか?
本書は週刊新潮の特集で書かれた4作品に1作品を加えた、ミステリのアンソロジーです。
「糸を使って外から鍵をかけた密室」をテーマとして書かれています。
同じトリックで書かれていますが、作家ごとの個性が出る作品を読み比べることができます。
同じ題材を複数の人が書くとどんな個性が出るのか? そんな取り組みに興味を持てる方向けです。
正直、作品の質にはバラつきがあると感じます。
これはもちろん好き・嫌いの問題もありますし、トリックを主役にするかどうか、という違いでもあります。
私は小説を書くことを料理に例える場合が多いのですが、本書はまさにそんな感じです。
例えば、「リンゴを使って料理をして下さい」と言われた場合。
焼きリンゴやアップルパイを作っても、すりおろしてカレーに入れたり、ドレッシングの素材に使ったり。
どれもリンゴを使って料理をしたことにはなりますよね?
「リンゴ」という素材をメインにしているかの違いです。
でも、自分の想像しているリンゴ料理と違うものが出てくると、違和感があるわけです。
だから、人によっては「これはミステリではない!」というものもあると思います。
それも含めて、各作家の料理の仕方を並べて楽しみたい人向けですね。

ちなみに、ジャンルはミステリですがエンタメ寄りの作品が多いです。
読後感よりも、その場の楽しさや面白さ重視、という感じですね。
ちなみに、最後の1作は少し扱いが違います。
最後の1作は企画のために書かれたものではなく、別の長編小説のために書かれたトリックが登場します。
この作品だけは「鍵をいかに開けたか?」に焦点が当たっており、内容も別格です。
本書はそれぞれが文庫で40~50ページ程度の短編作品なので、作りこまれた内容ではありません。
緻密な伏線も、思わず共感してしまうような動機も、複雑な人間関係も、なし。
もちろん、トリックも決まっています。
その制約の中で作者がそれぞれの得意分野を活かし、小説を書いた。そんな作品集です。
ですので、過度な期待は禁物です。
作者の頭の中を覗いて楽しむ、そんな感じでしょうか。
オチの部分に個性が出やすいので、作品の好き嫌いはそこで分かれそうです。
この中で気に入った作品があれば、その作者の作品を読んでみる。
そんな読み方に向いているのではないかと思います。

逆に、短編の中でいかに質の高いトリックを書くか? という内容を期待している人には向かないでしょう。
自分で小説を書いている人は、「自分だったらどう書くか?」と考えながらを読むと、より楽しめそうです。
では、皆さんが素敵な本との出会いに恵まれますように。
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