おすすめ度
★★★★☆(3.8)
この作品が好きそうな人・苦手そうな人
・ホラーが好き。
・不気味な雰囲気が好き(味わいたい)。
・先の読めない展開が好き。
・オチや詳細な設定に説明が欲しい。
・ドロドロした内容は苦手。
・物語で暗い気分にはなりたくない。
あらすじ
過去の辛い思い出に縛られた美希は、恋も人生も諦め、高知の山里で日々を送ってきた。美希の一族は村人から「狗神筋」と忌み嫌われながらも、平穏に暮らしていたが、ある日、一陣の風のように青年・晃が現れる。
同じ孤独を見出し惹かれ合った2人が結ばれた時、悲劇が幕をあける!
不気味な胎動を始める狗神。村人を襲う漆黒の闇と悪夢。土佐の犬神伝承をもとに、人々の心の深淵に忍び込む恐怖を描き切った傑作伝奇小説。
(本書背表紙のあらすじより)
作品情報
著者:坂東眞砂子
ジャンル:サスペンス(ホラー?)
ページ数:320ページ
感想
本作は高知県のとある村を舞台にした伝奇小説です。
伝奇小説をざっくりと説明すると、「中国の唐宋時代に書かれた短編小説、及び現代に書かれた幻想的な小説」となります。
今作は後者ですね。ジャンルとしてはサスペンスとホラーの中間でしょうか。
語り手である美希の住む山村は狗神の信仰があり、美希の坊之宮家は狗神を宿す「狗神憑き」として、村で恐れられています。
(※狗神については後述します。)
狗神を簡単に説明すると、狐憑きに呪術としての側面を足したような印象です。
「狗神憑き」の家計とはいえ、村八分というわけではなく、基本的には他の家と変わらない生活をしています。
母、兄夫婦、姪と住んでおり、表面上は家族仲も悪くありません。
昔ながらの風習に縛られた母、横柄な兄嫁はいるものの、平穏な毎日を過ごしています。
代わり映えのしない毎日を過ごす美希の前に、村の新任教師として晃が現れます。
美希と晃は引っ越し初日にたまたま言葉を交わした縁もあって、徐々に距離を縮めていきます。

そんな中、村人が悪夢を見るようになり、川の水が汚れるといった異変が現れ始めます。
ついには狗神に憑かれる(食われる)村民が現れたことで、村人たちの狗神への恐れと憎しみが噴出することになります。
好き嫌いは分かれるかもしれませんが、完成度の高い作品だと感じました。
序盤から不穏な雰囲気が漂っており、普段の光景が不安に見えるような不気味さがあります。
私は読んだ当時、狗神(犬神)についての知識がありませんでしたが、知識のある方はより不気味に感じるのではないでしょうか。
終始漂う陰のある空気や、狗神に憑かれた村民、悪夢の生々しさはホラー好きにはたまらないでしょう。
閉鎖的な村落に根差した信仰や恐れ。
暗い感情がふとしたきっかけであふれ出す様子は、狗神以上に人間そのものの恐ろしさを感じさせます。
私は都市部で生まれたため、農村や山村での生活体験はありません。
ですが、村落の出来事や村人の感情の矛先が、直に自分の身に向かっているように感じさせる。
そんなリアリティがあります。
美希の抱えた過去もドロドロとした暗いもので、作品の重い空気により読者を引き込んでくれます。
なお伝奇小説(幻想小説)なので、物語の中で詳細な説明がされることはありません。
科学で解明できないような現象も起きますので、そういった要素が好きでない方には向かないかもしれないですね。
終始息苦しくなるような空気が漂い、気づけば物語の中で呼吸をしている気分になれるでしょう。
安易に驚かせたり、怖がらせたりといったやり方は出てきません。
細かい違和感を積み重ねて、不気味な空気を作り出すような感じでしょうか。

ホラーによくある、「怖がれ!」という作品が嫌いな人でも楽しめると思います。
映画もあるようなので、気になった方はそちらもチェックしてもらえるといいと思います。
それでは、皆さんが良い本と出合えますように。
※以下、狗神についての簡単な説明です。
狗神(犬神)というのは、高知県などを中心とした西日本で知られる憑き物の一種。
方法は犬を動けない状態にして餓死する直前に首を斬り、頭部を焼いた骨を祀る。
上記の儀式を行った人に犬神が憑き、願望を成就させる、というものです。(注)
犬神については平安時代ごろには知られていたそうで、古くからの信仰のようです。
(注)儀式のやり方や、効果については諸説あります。
コメント