【短く深く】「100文字SF」【北野勇作】

小説・SF
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あなたにとって、自由とはどんなものですか?

仕事をしなくていいとか、好きに時間を使えるとか。

独身生活! なんて人もいるかもしれませんね。

では、自由な作品に触れたことはありますか?

あなたの考えをしっかり受け止めてくれる、そんな自由な作品。

時には正解の枠から外れて、自分なりの答えを探してみてはいかがでしょうか。

おすすめ度

  ★★★★☆(3.8)

自分なりの読み方をしたい人、自分の新しい側面を見つめたい人に。

好きそうな人・苦手そうな人

好きそうな人

・自分なりの解釈をすることが好きな人

・細かい設定が不要な人

・短時間でキリよく作品を読みたい人

苦手そうな人

・緻密な伏線の回収を読みたい人

・詳細な設定の作品が好きな人

あらすじ

これだけ数がそろうと自分の考えそうなことは大抵入っていて、そう言えばこんなのを書いていたな、とすぐに百文字で取り出せるようになって便利。でも同時に、これさえあればもう自分はいらないのでは、と思ったり。

(裏表紙より抜粋)

作品情報

著者:北野勇作

ページ数:204ページ

ジャンル:SF

出版社:ハヤカワ文庫

紹介・感想

紹介

約100文字で完結する、SF作品を集めた作品集です。

約200作品が掲載されており、作品数では随一でしょう。

もともと、著者のtwitterで公開されている「ほぼ100文字SF」の企画、

約2,000作品中200作品(本書出版時点)を選んだもの、とのこと。

以下は作者のツイッターです。

x.com

1ページ当たり1作品の非常にシンプルな構成です。

各作品につながりはなく、1話完結。

短時間でも読みやすく、時間のない人にもオススメできます。

感想

「100文字SF」と銘打たれていますが、私の感覚ではSFらしさはやや薄め。

詩とか、文学などの芸術よりの印象です。

ですので、科学用語が多用されるSFを読みたい人には、物足りないでしょう。

逆に、詩や文学のような「考えさせられる作品を読みたい人」

手軽に創作物にふれたい人、短くまとまった作品が好きな人にオススメです。

本書のおすすめポイントは主に下記2点。

①短くキリよく読みやすい

②自分好みの作品を見つけやすい

以下、詳細に見ていきましょう。

①短くキリよく読みやすい

1作品当たり100文字程度という短さのため、かなり読みやすいです。

1ページに1作品、見開きで2作品とまとめ方もかなりコンパクト

ちょっとした隙間時間や、暇潰しの時にも最適です。

移動中に少し読んで、次のページを開けば完全に別の内容に移ります。

今いいところなのに次の予定が! といったことは起きません。

サッと読んで、次に移るか、余韻を楽しむか。

複数の作品を短時間で楽しめることは大きな魅力です。

独特の感性で書かれたものも多く、作者の頭の中を覗いている気分になるのも、面白いところですね。

また、②にも共通していますが、苦手な作品があっても読み飛ばすことが簡単です。

逆に、好きな作品に出会ったときは読み返して、余韻を楽しめます。

作品自体は短い分行間が広く、何を感じるかは読んだ人、その解釈次第です。

サイコロのように、あなたが目にした面だけではない、無数の解釈ができます。

②自分好みの作品を見つけやすい

もう1つの特徴は、作品数がとにかく多いことです。

上記の通り1ページ1作品で200作品が掲載されています。

大まかに、SFに近い作品と、詩に近い作品があり、多少好みが分かれそうです。

例を挙げると、下記2作品が私の気に入ったものです。

SF的

自動車の自動運転が当たり前になり、文字通り自動車として自立した彼らは、その活動範囲を道路上から広げるために四足走行、さらに二足走行へと移行。そんな彼らによる車輪の再発見は、もう少し後の出来事である。

p149より引用

詩的

いまも回転している。回転を止めると倒れてしまう。そして、倒れたら死ぬ。だから生まれた時からずっと回転し続けている。そういう生き物なのだ。ずいぶん長い間、自分を中心に世界が回っていると彼らは考えていた。

p100より引用

分かりやすくするために「SF的」「詩的」と分けましたが、実際は読者次第です。

どちらもSF、詩、その他。どれともとれる、非常に行間の広い作品となっています。

100字という短さのため、必ずしも好みの作品ばかりではないでしょう。

しかし、全200作品あるため、あなたの感性に合った作品も必ず見つかります

素通りしていく作品の中に、必ず引っかかるものがあります。

気になったものを集めていくと、それはきっとあなたの本質と重なります。

それは、読んでいるときに求めるものだったり、あなたの個性だったり。

通り過ぎていく中で拾い上げた作品から、気になった理由を探していくのも面白いですよ。

また、各作品を自由に読めることも、本書の魅力です。

設定がしっかり決められている小説に比べ、解釈の幅は無限大です。

読む人だけでなく、その日の気分によっても解釈は変わってくるでしょう。

自由に読んで、自由に解釈できる、そんな宇宙のように懐の広い作品ばかりの作品集です。

Photo by NASA on Unsplash

最後に

個人的には小説を書いている人、特に執筆初心者に読んで欲しい作品集でもあります。

初心者で、まず長編小説を書こうとする人が多いですが、これは完全な死亡フラグです。

でも100文字の制限付きなら、書き終わらない、なんてことはまずないでしょう。

逆に、もっと書きたい思いの方が強いはずです。

その「もっと書きたい」という感覚を力にして、少しずつ長く書くようにすると、続けやすいです。

ちなみに、100文字という文字数は作者には制限となる場合が多いです。

書きたいことも書けないですから。

でも、読者にとっては読み解く余地が広い、自由な場所につながっています。

張り巡らせた伏線を回収する作品は、思わず拍手したくなるような美しさがあります。

私も緻密な伏線回収をする作品が好きだし、感動します。

でも、時には空白の広い作品も、自由に考えを吐き出すために必要です。

なんとなく煮詰まっているとき、迷いがあるとき、手に取ってみてください。

1人で、数人で、自由に読んで意味を詰め込んではいかがでしょうか。

それを受け止めてくれるだけの器は、ちゃんと用意されています。

では、あなたが素敵な本との出会いに恵まれますように。

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