【部類の群像ミステリ】「殺戮にいたる病」【我孫子武丸】

小説・ミステリ

おすすめ度

  ★★★★☆(4.5)

 ミステリ好きの、騙されたい全ての人に。

好きそうな人・苦手そうな人

好きそうな人

・どんでん返しが好きな人

・ミステリに騙されたい人

・変わった文体の小説が読みたい人

・犯人を丁寧に描写した小説が好きな人

苦手そうな人

・複雑な物語が苦手な人(時系列の行き来あり)

・探偵の活躍が読みたい人

・読後のスッキリ感を求めている人

あらすじ

東京の繁華街で次々と猟奇的殺人を重ねるシリアルキラーが出現した。

くり返される凌辱の果ての惨殺。

冒頭から身も凍るラストシーンまで恐るべき殺人者の行動と魂の軌跡をたどり、とらえようのない時代の悪夢と闇、平凡な中流家庭の孕む病理を鮮烈無比に抉る問題作!

衝撃のミステリが新装版として再降臨!

(本書裏表紙より)

作品情報

ページ数:362ページ

著者:我孫子武丸

ジャンル:ミステリ

出版社:講談社

紹介・感想

あなたはとって愛とはどんなものでしょうか。

無償の愛、隣人愛、親愛……などなど

様々な表現がありますが、宗教的にも言語的にも、「尊いもの」というイメージが強いのではないでしょうか。

ではもし、殺人こそが真の愛に至る道だとしたら。

あなたはどうしますか?

紹介

本書は一つの連続殺人事件と、それに関わる人々を描くミステリです。

主人公は3人。

妻に先立たれ、孤独な生活を送る元刑事の老人「樋口」。

自分勝手ながら、純粋に家族を愛する主婦「雅子」。

「真実の愛」を求めて殺人を行う連続殺人犯「稔」。

彼らの一人称視点が切り替わりながら、物語が進んでいきます。

本作は倒叙(とうじょ)ミステリと呼ばれるタイプで、犯人は最初から分かっています。

物語自体も「エピローグ」から、「稔」が逮捕された場面から始まります。

その逮捕までに何があったのか、過程を追っていくタイプのミステリです。

有名な作品としてはドラマの「刑事コロンボ」も倒叙ミステリですね。

群像劇としての側面もあり、3人それぞれの視点から一つの時間を追っていくことで、物語がいろいろな側面を見せてくれます。

感想

本書はどんでん返し型のミステリですが、他作品と比べて、衝撃はけた違いです。

「どんでん返し」だと分かっていれば先読みできる、そんなレベルではありません。

読了した全員、魂が抜けてフリーズするでしょう。

私は最後の一文読んだ後、しばらく駅のホームで読み返していました。

それほど、最後の一文は読者の様々な前提を破壊していきます

衝撃が大きすぎて、理解までに少し時間を要するのが難点かもしれません。

恐らく、納得できない部分があって読み返したくなる人も多いのではないでしょうか。

ですが、どんでん返しを踏まえて読み返すと、今度は物語の構成の緻密さに感動します

書く場面に若干違和感を持たせるような描写があるのですが、そのどれもが計算されています。

今までの違和感が全て作者の手の平の上、という事実に驚かされます。

本書はどんでん返し型のミステリで、最後の一文を書くためにすべての文章が書かれています。

ですが、登場人物も丁寧に描かれており、魅力的で現実味に溢れています

「樋口」の孤独感や無念も、少しひねくれた性格はある種のもの悲しさ。

「雅子」は神経質な主婦が目の前にいるようないらだちや不安。

犯人の「稔」は狂気を宿しながらも、共感できる瞬間があります。

本当に別々の人物が書いた日記を読んでいるような、そんな現実そのものが描かれています。

ミステリ好きや読書好きの方にはもちろんおすすめです。

加えて、創作を行う方にもお勧めしたい作品でした。

私自身は小説を書く中で、「小説は現実を書くもの」と考えています。

ただ理想だけを書いていても、感動は起こりませんから。

そういう意味で、本書はお手本のような作品だと感じました。

最後のどんでん返しや構成の緻密さもさることながら、本書は現実を描いています。

それは現実故に、必ずしも心地よいばかりではありません。

でも、その苦しさがあるからこそ、感動も生まれます。

また、小説でしかできない描き方をしていることも、非常に良い点です。

漫画や映像のような情報量の多いメディアでは描けない、面白い書き方をしています。

ミステリを書く方は読者に対して仕掛けるトリックとしても参考になります。

本書からは、きっと色々なことを学べると思いますよ。

ちなみに、若干グロ描写がありますので、苦手な人はご注意ください。

では、あなたが素敵な本との出会いに恵まれますように。

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