おすすめ度
★★★☆☆(3.4)
気楽な非日常への扉をあなたに。
好きそうな人・苦手そうな人
・気楽に楽しめる作品が読みたい人
・ホラー作品にチャレンジしてみたい人
・怪談が好きな人
・軽い内容が苦手な人
・オタクっぽい内容が苦手な人
あらすじ
仁科鳥子と出逢ったのは〈裏側〉で“あれ”を目にして死にかけていたときだった――その日を境にくたびれた女子大生・紙越空魚の人生は一変する。
「くねくね」や「八尺様」など、実話怪談として語られる危険な存在が出現する、この現実と隣り合わせで謎だらけの裏世界。
研究とお金稼ぎ、そして大切な人を捜すため、鳥子と空魚は非日常へと足を踏み入れる――気鋭のエンタメSF作家が贈る、女子ふたり怪異探検サバイバル!
(本書裏表紙より)
作品情報
ページ数:317ページ(解説含む)
作者:宮澤伊織
ジャンル:ホラー(?)
出版社:ハヤカワ文庫JA
紹介・感想
あなたにとって、「怖いもの」はどんなものですか?
虫、蛇、雷、幽霊。高いところや狭い場所、尖ったものに対する恐怖症もありますね。
もし怖いものが目の前に現れた時、あなたはどうしますか?
内容紹介
本書は主にネット掲示板で語られた怖い話を題材にした怪奇小説です。
既に漫画化されており、2021年1月4日からアニメ化も予定されています。

主人公である紙越空魚、「裏世界」で死にかけているところを人探しをしていた仁科鳥子に偶然救われ、共に行動するようになります。
最初は金銭目的で、やがて裏世界の探索を目的に。
危険に見舞われつつも、二人は「裏世界」を探検してきます。
裏世界にはネットで実話怪談と呼ばれる怪談に登場する「くねくね」や「八尺様」といった怪物が登場します。
怪談に詳しい人には、馴染みのある内容でしょう。
いわゆるライトノベルのような感じで、娯楽性を重視した内容です。
物語は空魚の視点で進んでいき、軽い文体でテンポよく進み、小説を読み慣れていない人にも読みやすいかと思います。
連作短編のような形式で一話ごとの区切りが明確なため、サクッと読めます。
感想
私は本書を読んで思ったのは、考え方の違いが面白い、ということです。
怪奇現象を題材にした小説は世の中に多数ありますが、その中で本書は変わった作品だと思います。
・銃で戦う
・並行世界を科学的にとらえている
・現実の怪談とリンクしている
こういった要素は意外に少ないのではないと思います。
怪奇現象と正面切って殴り合うことは珍しいですし、「裏世界」を科学的にとらえていることも珍しいです。
「裏世界」の実態は描かれていません。不気味な、得体の知れない場所として書かれています。
例えば、「裏世界」からこちらの世界へ通信などを行うと、言葉がおかしくなったり、文字も不自然なものとなります。
「裏世界」では普通に読める文字が、現実に戻ってくると文字化けしたようになる、という感じです。
本作はこれらの現象を「不気味だ」というだけでは、終わらせません。
人間の脳に作用して言語に関する箇所に影響を及ぼすのではないか、と仮説を立てます。
不合理なものを科学的に解釈していく、というのは新しい視点のように感じました。
まだ明確なことは何もわかっていないため、続編に期待、という感じです。
また、一般的な小説であれば、怪奇現象は「理不尽で倒せないもの」として書かれることが多いでしょう。
幽霊と戦ったり、悪魔祓いをする場合でも、多くの場合は神秘的な力を使って解決しようとしています。
そんな中で怪奇現象を物理的に倒そうとする、というのは面白い考え方だと思います。
怪奇小説ではありますが、ホラーな場面はほぼありません。
主人公たちも命の危険にさらされますが、彼女たちが武装しており、戦うことができます。
怪奇現象を相手に銃をぶっ放して、問題を解決します。

戦う手段を持っていることもあって、怖さが半減しているようです。
ホラー映画で、
①幽霊に襲われて逃げ回る
②ゾンビに襲われて倒しながら進む
どちらかといえば②の方がまだ怖くない感じでしょうか。
アクションに目が向くこともあって、ホラーが苦手な人でも無理なく読めると思います。
反動などの細かい部分は書かれていませんが、許容範囲内かと。
小説を読み慣れていない人や、お試しでホラーを読んでみたい人にもおすすめです。
逆に、読後感を楽しみたい人、心に残るものを読みたい人には、あまり向かないと思います。
怪談を少し違う側面から取り扱った本書ですが、あなたは怪談をどう解釈していますか?
「こんな考え方もありだな」と、自分なりの解釈を見つけながら本書を読んでみるのも、面白いと思いますよ。
では、あなたが素敵な本との出会いに恵まれますように。
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