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おすすめ度
★★★★☆(3.8)
緻密な世界観で、一人の登場人物になりたいあなたへ。
好きそうな人・苦手そうな人
・緻密な世界観が好きな人
・登場人物が成長する物語が好きな人
・児童文学を楽しめる人
・爽快感を求めている人
・速い展開が好みの人
あらすじ
老練な女用心棒バルサは、新ヨゴ皇国の二ノ妃から皇子チャグムを託される。精霊の卵を宿した息子を疎み、父帝が差し向けてくる刺客や、異界の魔物から幼いチャグムを守るため、バルサは身体を張って戦い続ける。
建国神話の秘密、先住民の伝承など文化人類学者らしい緻密な世界構築が評判を呼び、数多くの受賞歴を誇るロングセラーがついに文庫化。痛快で新しい冒険シリーズが今始まる。
作品情報
・著者:上橋菜穂子
・ジャンル:ファンタジー(ハイファンタジー)※異世界が舞台のもの。転生ものとは別。
・ページ数:360ページ(解説含む)
・出版社:新潮社(新潮文庫)
紹介・感想
あなたは「他の世界」を信じていますか?
最近は異世界転生もののファンタジーも人気で、異世界に思いをはせる人も多いのではないでしょうか。
もっとも、異世界であってもそこは現実で、「理想郷」というわけではないでしょうが。
紹介
本書は異世界を舞台とした、「ハイファンタジー」に分類される小説です。
ロングセラー作品で全13冊のシリーズがあり、緻密な世界観高いが評価を得ています。
児童文学に近いですが、大人から子供まで楽しめる内容です。
2016年~2018年にかけてドラマ化(主演:綾瀬はるか)やアニメ化もされており、ご存じの方も多いでしょう。
物語は主人公バルサが、川に落ちた第二皇子チャグムを助けるところから始まります。
バルサは女性ながら用心棒として名を知られており、短槍の達人です。
彼女は二ノ妃からチャグムの護衛を依頼され、彼を連れて王宮から逃げ出します。
国を統べる「帝」が、息子である彼の暗殺を企てているためです。
バルサとチャグムは帝からの追手や、精霊の卵を狙ってくる化け物から逃れ、無事に卵を孵せるのか? という物語です。

感想
ロングセラーというだけあって、非常に完成度の高い物語です。
正直、物語の構成や文章力は平均的なレベルだと思います。
ですが、世界観の作りこみが半端ではありません。
作者が文化人類学者であることも関係しているでしょうが、完全に1つの世界として成立しています。
こんな文化の国や民族がいても全く不思議ではない、そんな完成度です。
例えば、国の成り立ちについての伝説が挙げられます。
チャグムの出身である新ヨゴ皇国では、『「天の神」の加護を受けた天子』とされる、帝が国を統べています。
帝の先祖は100年に一度目覚める怪物を倒し、平穏をもたらして新ヨゴ皇国を建国した、とされています。
これが、帝が息子であるチャグムを殺そうとする理由にもなっています。
チャグムに宿った精霊の卵は、新ヨゴ国の考えからすれば怪物の卵です。
そんなものは「神の加護」を得ている帝の子孫に宿るはずはない。
そのため、もし国民に知れれば帝の威光に瑕がつく恐れがあります。
国の統治を優先して息子チャグムを犠牲にする。これが帝の判断だったわけです。
他にも原住民「ヤクー」と「ヨゴ人」との世界観の違いや、文化の違い。
そういった民族ごとに生じた文化の根底まで設定がされている物語は少数です。

これらはあくまで設定の部分ですが、同時に物語の主題でもあるように感じます。
立場によって考え方は無数にあり、自分が見ている世界「だけ」が正しいわけではない。
学ぶことを止めずに他の世界を知って、広い世界を知りなさい。
立場の違いを乗り越えた先に、これまで見えなかった景色が見える、そういわれているように感じました。
ちなみに、個人的な評価は可もなく不可もなく、という感じです。
確かに、緻密な世界観には非常に学ぶべき箇所が多いです。
しかし、設定が細かすぎて説明が多く、テンポが悪くなっている部分もあります。
また、全体として文章がやや平易で、物語の盛り上がりに欠けるように感じました。
ただ、これは好みの部分ですので、人によってはそこまで気にならないでしょう。
総評としては普通ですが、世界観の緻密さは群を抜いています。
世界観が緻密であれば、人物ごとの動機がはっきりします。
思考の前提となるものが細かく設定されていることで、矛盾が減り、説得力が増します。
小説を書く際にはお手本すべき小説の1冊ですね。
では、あなたが素敵な本との出会いに恵まれますように。
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