あなたは何かを極めたことはありますか?
部活動や、趣味で一番になろうと努力した、そんな経験のある人は多いかもしれませんね。
本書はひたすらストイックに、おいしいペペロンチーノを研究する過程を書いた一冊です。
ひたすら科学的においしさを追求する、その方法は料理以外にも応用できる……かも。
おすすめ度
★★★☆☆(3.4)
料理好きの人、ドキュメンタリーが好きな人にオススメです。
好きそうな人・苦手そうな人
・凝った料理を作ることが好きな人。
・おいしい料理を食べるのを好きな人。
・過程を楽しめる人。
・細かい理屈が苦手な人。
・いろいろなレシピが知りたい人。
・結論だけ知りたい人。
あらすじ
えっ、オリーブオイルを使うなだって⁉
シンプルだからこそ奥深い、ペペロンチーノの世界。
パスタの選び方、塩の必要量、湯で時間、ニンニクの切り方、塩と油の使い方……。
究極の一品をつくる思考を身につければ、どんな料理にも応用できる。
1冊で1品、誰も読んだことのない「革命的レシピ本」が誕生した。
(本書裏表紙より抜粋)(記事作成者による改行あり)
書籍紹介
著者:土屋 敦
ページ数:238ページ
ジャンル:レシピ本(新書)
出版社:日経プレミアム
感想・紹介
紹介
本書は新書一冊、185ページを使って書かれたペペロンチーノのレシピ本です。
筆者は料理研究家、ライターの土屋敦氏。
材料はニンニク、オリーブオイル、パスタ、唐辛子、塩。
この5つの材料のみを使い、究極のペペロンチーノのレシピを作ります。
そもそもアルデンテとは、塩はパスタに影響を与えるのか? 等々。
科学的な考察も交えつつ、究極のペペロンチーノを目指した一冊です。
感想
一言で感想を言うなら「呆れを通り越して感動する」です。
まず、本書は完全に読み物であって、本来の意味でのレシピ本ではありません。
本書で最終的に紹介されるレシピは4種類です。
究極のペペロンチーノとして紹介されている「勝負ペペロン」のレシピ。
簡易版の「休日ペペロン」、「時短ペペロン」、「生パスタ風ペペロン」のレシピの三種類。
全部合わせても、割合で言えば全体の5%ほど。
しかも、レシピ含め大まかな内容は、筆者のブログで閲覧可能です。

ですので、本書はあくまでドキュメンタリーです。
究極のペペロンチーノのレシピが生まれるまでの過程です。
過程に興味がなく、レシピだけ知りたい人には向かないです。
「よくここまでやるな」とあきれを通り越して拍手したくなるほど、徹底的に研究します。
・「ゆでる」現象の解説に食品の水分布に関する論文を引用。
・「アルデンテ」を定義するために、グルテンとでんぷんを分離。
・ゆで汁の塩分量がパスタに与える影響の確認。etc
パスタのゆで方にたどり着くまでに全体の57%(132ページ)が経過します。
こだわりが強すぎて料理ではなく、まさに「研究」という感じです。
調べてみると、著者は時間をかけて調理方法を研究することで有名なのだとか。
時間や手間を惜しまない料理方法で有名のようです。
「アルデンテ」を定義するためにパスタの歴史を参考に、自説も述べられています。
半分ネタとはいえ、「アルデンテ」や麺の「コシ」を解説するために、
パスタの歴史を調べる人が、どれだけいるでしょうか。
一部筆者の妄想のようなものも含まれていますが、それもまた面白いです。
パスタの歴史もそうですが、パスタの麺の種類や製法による違いも紹介されています。
料理の研究だけでなく、雑学としても楽しめます。
また、なんとなくのイメージや通説を確認するために、かなり科学的な視点も取り入れています。
岩塩を使うとなんとなくおいしくなりそう、とか。
イタリアの料理にはオリーブオイル以外は邪道だな、とか。
そんなイメージで語られる一般論は全部却下。
岩塩はミネラルを含まないため使う意味はなく、海塩を使うべき。
加熱により酸化しやすいオリーブオイルは加熱せず、ゴマ油を使う。
しかも上記の確認に家庭内で条件を変えたパスタを二重盲検法(※)で確かめ、
熱した油をひたすら味見したりと、徹底的に検証します。
(※実験者と被験者がどちらも対象を確定できない状態でテストを行う方法。
治験ではどちらが薬品でどちらが偽薬か、医者も患者も知らされずに行う)

ここまで仮説・検証を繰り返した末の結論なら、もういいでしょ。
読んでいる側がそう感じてしまうほど、常識を疑い、ひたすら追求していきます。
私は材料の指定がかなり細かいこともあって、レシピ通りにはまだ作っていません。
ただ、読了後にイタリア料理店でペペロンチーノを食べてみました。
その店のペペロンチーノはやや太麺、ニンニクはみじん切り、唐辛子は少量。
本書の内容と比べてみると、色々と発見もあって面白かったです。
太麺の方が確かに歯ごたえがあって、メリハリがあるなとか。
ニンニクを細かく切るのはオリーブオイルを高温にしなくても、火を通せるからかなとか。
ニンニクが細かいと、香りとか食感の面で刺激が少し弱いかなとか。
知っていて食べるのと、知らずに食べるのでは、感じ方がかなり違いそうです。
9割はあくまでエンタメとして、残りはおいしい料理を味わうため。
そんな読み方をすると、今後食べるペペロンチーノへの見方も変わってきそうです。
では、あなたが素敵な本との出会いに恵まれますように。
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