あなたにとって今は夏でしょうか、冬でしょうか。
コロナ禍もあって長い冬の時期だ、という人も多いかもしれませんね。
本作は1956年出版のSF作品の名作です。
とにかく突っ走る主人公と、テンポの良い文体。
物語に身を任せて突き進めば、あなたの「夏への扉」が見つかる、かも。
おすすめ度
★ ★ ★ ★ ☆(3.9)
テンポよく爽快な物語を読みたいあなたに。
好きそうな人・苦手そうな人
・テンポの良い物語が好き
・ブレーキの壊れた主人公が好き
・爽快な物語を読みたい
・ハッピーエンドを読みたい
・ご都合主義的な展開が嫌い
・海外小説の文体が苦手
・細かい設定が気になる人
あらすじ
ぼくの飼っている猫のピートは、冬になるときまって夏への扉を探しはじめる。家にあるいくつものドアのどれかひとつが、夏に通じていると固く信じているのだ。
1970年12月3日、かくいうぼくも、夏への扉を探していた。最愛の恋人に裏切られ、生命から二番目に大切な発明までだましとられたぼくの心は、12月の空同様に凍てついていたのだ! そんな時、〈冷凍睡眠保険〉のネオンサインにひきよせられて……永遠の名作。
作品情報
作者:ロバート・A・ハインライン
ジャンル:SF
ページ数:383ページ(あとがき、解説含む)
出版社:ハヤカワ文庫
備考:2021年6月、日本にて映画化
紹介・感想
紹介
※本記事は2010年出版の翻訳を元に書いています。
古典SF小説の名作として名高い、冷凍睡眠を題材にした作品です。
初版出版は1956年。有名人では、サザンオールスターズの桑田佳祐、俳優のトム・ハンクスがこの年の生まれです。
2021年6月には、なぜか日本で映画化されています。
舞台は1970年代のアメリカで、主人公の「ぼく」ことダン・B・デイビス。
物語は傷心の主人公が冷凍睡眠の契約に向かう場面から始まります。
恋人ベルを親友マイルズに取られ、2人に裏切りで会社からも追い出されて、酒浸りの生活。
2人への仕返しを考えていたダンは、2人が若さを失うまで、冷凍睡眠に入ることを思いつきます。
ただ、このまま「冷凍睡眠で未来に行くぜ!」というわけではなく。
親友と恋人を糾弾するために、2人のもとへ乗り込みます。
そこで2人の不正を暴くのですが……、という物語。
SFの中でもロングセラー作品であり、著者の代表作の1つでもあります。
2000年代の描写もあり、過去が未来として描かれているあたり、時代を感じますね。
魅力
言わずと知れたSF小説の名作です。
久々に読み直して、名作と言われるにはそれなりに理由があるな、と改めて感じました。
私の考える本作の魅力は以下2つ。
・テンポの良さと、伏線の回収
・立ち止まらない主人公
順番に見ていきましょう。
テンポの良さと、伏線の回収
とにかくテンポが良い。
テンポの良さの理由は主人公の行動力です。
元恋人と親友に会社を追い出された→俺の研究は持ち出させてもらうぜ!→失敗→
→法律でギャフンと言わせてやる! 弁護士だ!
主人公があっちに行ったりこっちに行ったり。
直情型というか、かなり感情に正直で、思いついたらすぐ行動にうつします。
しかも、失敗してもすぐに別の行動を始める、ブレーキがぶっ壊れているタイプ。
冷凍睡眠から無一文で目覚めた時も、昔の自分の会社へ創業者として自分を売り込んだり、
やれることはどんどんやっていきます。
文章も軽快で、テンポを損なうことはありません。
しかも、そのハイテンポな中にしっかり伏線が敷かれています。
読んでいて多少気になる部分があっても、スピード感で全て押し流して進んでいきます。
ジェットコースターに乗っていると細かい景色を気にしないような、そんな感じです。
それが後々になってきっちりまとまり、爽快感につながっていきます。
逆に伏線をテンポで読み飛ばせない人は、楽しさが半減してしまうかもしれません。
立ち止まらない主人公
テンポの良さとほぼ同じですが、この主人公とにかく動きます。
恋人に裏切られて酒に飲まれたり、冷凍睡眠から覚めたら無一文でショックを受けたり。
場面ごとに見れば、少しダメージを受けていることもあります。
でも、すぐにダメージをバネに反撃にうつります。
冷凍睡眠に入って老いぼれた恋人を笑ってやるぜ、とか。
元自分の会社に売り込めば、雇ってもらえるんじゃないか、とか
気づいたら次の行動を始めています。
冷凍睡眠から目覚めた後、しばらくは元自分の会社で名誉職としてのんびり働きます。
しかしある事実を知った後から、また猛然と動き始めます。
行き当たりばったりで、時には感情に振り回されながらも、気づけばまた前に進んでいる。
完全にブレーキが壊れたタイプ。そんな主人公に勇気づけられた人もいるのではないでしょうか。
ある意味では、ルフィや孫悟空などのジャンプ系の主人公に近いです。
自分に正直にひたすら前を向いている主人公が好きな人には、たまらない作品ですね。

感想
好きな作品ですが、少しご都合主義っぽさもあるな、というのが正直なところです。
作中でも語られますが、主人公のダンに幸運が味方する場面が多いです。
ですが、それも基本はテンポの良さが解決しています。
読んでいて多少違和感があっても、疑問に思う前に次の展開がやってきます。
読者は展開の速さを追っていけば、後は楽しみたいように楽しんでOKです。

ページを戻って確認するのは、野暮なので控えましょう。
ちなみに、基本的なテーマは普遍的なもので、「自分のやりたいものに集中する」です。
それ以外のものは時間をかけない。惑わされない。
冷凍睡眠から目覚めた後、ダンが元恋人のベルに出会う場面があります。
そこで目にしたのは、太って醜く年を取ったベルの姿でした。
しかも、ベルはまだ若く美しいつもりで露出度の高い服に、濃い化粧。
これにはダンもドン引き。
復讐をする気も失せて、自分がやるべきことに向けて進み始めます。
時には人の意見に流されたり、迷ったりするのはしょうがない。
でもゴールさえ見失わずに進み続ければ、ハッピーエンドが迎えてくれる。
アメリカンドリームっぽい小奇麗な主張ですが、それも時には魅力的ですよね。
あまり細かいことを考えずに、流れに身を任せて楽しむのに適した作品です。
余談ですが、この小説は少し古い海外小説の文体や、言い回しが多く登場します。
例えば、序盤のバーで注文をするシーン。
「おい兄弟。そのホタテガイを俺に押しつけないと約束すれば、おまえにホタテガイ分のチップをやろう。おれのほしいのは注文したものだけだ。(後略)」
P11、10~11行目
少しカウボーイっぽいというか、海外ドラマで見る仕草の大袈裟な、あの感じ。
そんな文体なので、翻訳小説の文体が鼻につく人は少し読みにくいかもしれません。
その他もろもろ、細かい疑問やこだわりを捨てて読むのに向いた作品です。
単純な面白さだけでなく、60年以上前から見た現代という視点でも面白く読めます。
文体も軽くて読みやすいので、読書好きもそうでない人も読んで損はない作品です。
では、あなたが素敵な本との出会いに恵まれますように。
コメント