おすすめ度
★★★☆☆(3.7)
皮肉たっぷりのユーモアを全身で味わいたい人に。
好きそうな人・苦手そうな人
・細かい設定は気にしない
・物語のノリに付き合える
・皮肉っぽいユーモアを楽しめる
・映画の原作小説も読みたくなる
・細かい設定が気になる
・物語には感動が欲しい
・バカバカしい内容は苦手
あらすじ
銀河バイパス建設のため、ある日突然、地球が消滅。どこをとっても平凡な英国人アーサー・デントは、最後の生き残りとなる。アーサーは、たまたま地球に居た宇宙人フォードと、宇宙でヒッチハイクをするハメに。必要なのは、タオルと〈ガイド〉――。シュールでブラック、途方もなくばかばかしいSFコメディ大傑作!
(本書裏表紙より抜粋)
作品情報
著者:ダグラス・アダムス
ページ数:302ページ
ジャンル:SF(コメディ)
出版社:河出書房
備考:映画化原作
紹介・魅力・感想
紹介
本書は1979年にイギリスで出版された、ダグラス・アダムスのSF小説です。
「名前は聞いたことがある」という人も多いのではないでしょうか。
原作はBBC・ラジオ4で連続ドラマとして放送されたラジオドラマで、著者はラジオドラマの原案・脚本も担当しています。
原作者本人によるメディアミックス作品ですね。
続編として5作品が出版、ゲーム化、コミック化、映画化もされるなど、かなりの人気シリーズです。
物語は主人公・アーサーの家が道路工事のために取り壊されるシーンから始まります。
アーサーは家を壊そうとする重機の前に寝っ転がって抵抗。
そんなアーサーのところに友人のフォード(宇宙人)が現れ、強引に彼をパブへ連れて行きます。
2人が酒を飲み始めると空に無数の宇宙船が現れ、地球を銀河ハイウェイ建設のために破壊すると宣言。
何とか脱出した2人ですが、逃げ込んだのは地球を破壊した宇宙人の船で……。
全編通してイギリス風ユーモアが散りばめられ、おまけが本編。
肩の力を抜いて、ビール片手に読書を楽しみたい人向けのハチャメチャな一冊です。
魅力
様々なメディア展開がされる本書の魅力ですが、私が感じる魅力はシンプルです。
・適当なところ
紹介の仕方がもう適当ですが、本心からそう思っています。
もう少し詳しく見ていきましょう。
適当なところ
あらすじでも紹介していますが、展開がハチャメチャです。
「道路工事で家を壊されそうになっていたら、地球が壊されました」。
全編通してこんな感じのブリティッシュ・ジョーク(※)が満載です。
※ブリティッシュ・ジョークは、イギリス文化の独特なユーモア。皮肉や風刺、自虐をこめたジョークを指す場合が多い。
ストーリーはそっちのけで、ジョークを書くために本編を書いているような感じです。
しかも、このジョークは本編には関係しません。
さも意味のありそうな過去の物語が挟まれたと思ったら、そのまま本編に戻る。
今の数ページは何だ? と考えても、そもそも本編とのつながりはほぼなし。
主人公のアーサーは自分の常識の通用しない宇宙で色々と振り回されますが、
読者も同じようにブンブン振り回されます。
SFっぽい用語も出てきますが、細かく理解しようとしてはいけません。
例えば、速度の単位「R」について説明はこんな感じ。
「Rというのは速度の単位で、身体的な健康を損なわず、精神衛生にも害がなく、たとえば五分以上は遅刻せずに目的地に着くためのまずまずな移動速度と定義されている。
というわけで、当然のことながら状況に応じてほとんどどんな値でもとりうる。」
引用P284、4~6行目

「定義」と書いていながら、何も定まっていないという適当さ。
終始こんな適当で、ハチャメチャなまま物語が進んでいきます。
感動的な最後とか、張り巡らせた伏線の回収とか、そんなものは期待してはいけません。
突然の展開で始まり、関係ありそうでつながらない小噺をいくつか挟み、あっという間に終わります。
真面目なシーンもありますが、長続きはしないので期待してはいけません。
だからこそ、この適当さ、めちゃくちゃな感じを楽しめる人には最高の1冊です。
感想
・宇宙、生命、その他もろもろの答えは……「42」。
・人間は地球上で3番目に知能の高い生物であり、2番目はイルカである。
・武器を満載した大艦隊が地球に攻め入り……犬の口に飲み込まれてしまった。
上記の内容を耳にしたことのある人も多いのではないでしょうか。
これらはいずれも本書「銀河ヒッチハイクガイド」に登場する内容です。
先に魅力として紹介した通り、とにかくハチャメチャな展開がてんこ盛り。
断言しますが、読後の感動はありません。
適当に繰り広げられる物語に、雑にツッコミを入れながら読むのが一番。
独特のリズムやテンポ、皮肉っぽいユーモアを全力で楽しむための小説です。
1回目よりも、2回目の方が期待しない分、素直に楽しみやすいかもしれません。
もっとも、イギリスのユーモアなので、少し笑いどころが分かりにくいですけどね。
さて、ひたすら適当な内容だからと言って、得られるものがないかと言えば、そうでもありません。
主人公・アーサーは地球を破壊されたり、宇宙に放り出されたり。
あちこち引っ張りまわされて、好き放題に振り回されます。
おまけに「地球のことでくよくよするのはやめろ」とまで言われる始末。
でもそれも当たり前。宇宙ではもう、地球での常識は通用しないのですから。
そもそも、地球は宇宙の道路工事で壊して良い。その程度の惑星として考えられています。
「当たり前」が全く違うわけです。
日常で感じる場面は少ないですが、意外に常識は人によって違います。
案外、自分の考える当たり前は非常識なのかも。
そんな風に気づければ、ムカッとくることも減るかもしれませんね。
あちこちに挟まれる皮肉っぽいジョークは、バカバカしいものばかりです。
でも、中には自分の頭の固さを言われたようで、ちょっとドキッとするものも。
常識にとらわれずフラットに世の中を見る、そんなきっかけになるかもしれません。
もっとも、本書は難しく考えずに楽しむためのSFコメディです。
小難しく考えず、ぶっ飛んだハチャメチャな展開を素直に楽しみましょう。
笑いが明日への活力になれば、それが一番重要な本書の読み方です。
ちなみに、すべての答えである「42」は著者曰く、「適当な数字」だそうです。
では、あなたが素敵な本との出会いに恵まれますように。
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