【罪のない青春ミステリ】「いなくなれ群青」【河野裕】

小説・ミステリ

おすすめ度

  ★★★★☆(4.1)

好きそうな人・苦手そうな人

好きそうな人

・人の死なないミステリが読みたい人

・若者の物語が好きな人

・本格派のミステリが好きな人

・しっかり事件が解決するミステリが読みたい人

・ファンタジー要素が苦手な人

・小説の読後感を楽しみたい人

・現実から離れて物語を楽しみたい人

苦手そうな人

・本格派のミステリが好きな人

・しっかり事件が解決するミステリが読みたい人

・ファンタジー要素が苦手な人

あらすじ

11月19日午前6時42分、僕は彼女に再会した。

誰よりもまっすぐで、正しく、りりしい少女真辺裕。あるはずのない出会いは、安定していた僕の高校生活を一変させる。奇妙な島。連続落書き事件。そこに秘められた謎……。

僕はどうして、ここにいるのか。彼女はなぜ、ここに来たのか。やがて明かされる真相は、僕らの青春に残酷な現実を突きつける。「階段島」シリーズ、開幕。

(本書背表紙より)

作品情報

作者:河野裕

ページ数:318ページ

出版社:新潮文庫

ジャンル:ミステリ

感想

あなたは「自分」を変えたいと思ったことはありますか?

本作は「階段島」と呼ばれる島を舞台とした青春ミステリです。「階段島」シリーズの第一作ですね。

ミステリではありますが、人が襲われたり死んだり、といった物騒な事件は起きません。

起こる事件も大仰なものではなく、落書きがされたり、誰かが島を出ようとして密航しようとしたり。

解き明かしていく謎は事件を起こした動機であったり、階段島の謎そのものへ近づく、というものです。

ミステリの中でも犯人捜しをする必要がない、敵や罪のないミステリ、といえると思います。

あくまで日常の中に起こる事件ですので、あまり気を張らずに読むことができます

逆に、物理トリックのような「トリック」や「推理」を楽しみたい方には物足りないかもしれません。

なお、本作は少しファンタジー要素があります。基本的には現実と変わらないのですが、「階段島」が現実と切り離された場所にあります。

舞台となる「階段島」は島の中央に山があり、山頂に続く非常に長い階段があることからそう呼ばれています。

階段島の住人はある日気がつくと階段島にいて、初めて会った住人から階段島の説明を受けます。

・階段島は捨てられた人たちの島であること。

・島から出るには、失くしたものを見つける必要があること。

この二つが階段島の原則で、その他にも下記のような特徴があります。

・階段島は海に浮かぶ島で、地図には載っていない。

・船で脱出しようとしても、島に戻される。

・週に一度船で通販が届くが、階段島の外にメールをしたり、電話を掛けたりは出来ない。

・山の頂上には階段等を支配する魔女が住むと言われている。

しかし、魔女の姿を確認した人はいません。

というのも、階段を上っていくと霧が出て、やがて眠くなって気を失い、目を覚ますと階段の下に戻されているためです。

そんな環境ですが、島から出られない他はあまり不自由もないため、平和な暮らしが成り立っています。

ただ、「捨てられた人たちの島」と説明される通り、島にいる住人は変わった人も多いです。

・仮面をかぶった学校の先生

・相手の好きな本を名乗る「百万回生きた猫」

・常にゲームミュージックを聞いている男子生徒

そんな特徴的な住人たちの人となりも、本作の楽しみの一つといえると思います。

なお、本作は二人主人公の形態をとっています。

常に当事者でいようとする「真辺」と、常に傍観者のように振舞う「七草」の二人です。

基本的には七草が語り手となって物語は進行していきます。

真辺は非常に正直で、疑問や考えを正直に口に出すタイプ。

七草は少し冷めていて、相手に話しを合わせたり、時にははぐらかしたり。

そんな二人のかみ合っていないようで、息の合ったやり取りが少しずつ物語を動かしていきます。

物語が進行するにつれて見えていた景色が少しずつ変わっていき、二人の違う側面や、階段島の秘密が見えてきます。

私がこの物語で特に面白いと感じるところは、現実の自分を見つめるきっかけにもなるところです。

あくまで創作の中なのですが、今の自分のことも意識させられる、そんな巧妙な描き方をしています。

文章も柔らかく、すらすらと読んでいけますので、少し現実から離れて小説を楽しみたい人にもおすすめです。

では、皆さんが良いほんとの出会いに恵まれますように。

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